2月にアクチュアリーの合格発表があるのですが、それから人間らしい日(合コンいったり、マルチ商法の勧誘を受けたり)を過ごし、ゴールデンウィークが開けたのこの時期から「12月の試験に向けて動き出すか」と考えていました。
特に8月のお盆くらいまでが試験の申し込みの期限だったので、人生が掛かっているとはいえ、試験代(1科目約1万円)を無駄にしないよう、自分のやる気と能力と、会社への”見せ方”を意識して、受験する科目数を考えていました。今思うと、CFAの試験代と比較にすると気にならない値段ですが。
そういえば今年(2022年実施)の試験からCFAと同様に、試験がCBT形式になるんですね。
アクチュアリー業界の主な戦場と言えば、生命保険会社がまず思い浮かぶかと思います。生命保険会社は主に死亡保険やがん保険等の生命保険商品の提供の他、企業年金の資産運用や制度管理も手掛けています。そしてその企業年金分野で「一般勘定の保証利率の引き下げ」というニュースが話題となりました。
2021年の10月には、唯一「株式会社」化していた第一生命が、おそらく株主からのプレッシャーに耐えかねず、他社に先駆けて保証利率を引き下げました。そして、とうとう生命保険会社のボスである日本生命も引き下げに転じました。きっと2023年4月には、他の生命保険会社も追随して引下げを発表してくるでしょう。
信託銀行にアクチュアリーで入社した人はもちろんこの企業年金分野に従事するのですが、生命保険会社に入社した人も「僕は生命保険会社に入社した(する・希望している)から関係ないや」ということはなく、前述のとおり、生命保険会社も企業年金分野に参入しているので、相応のアクチュアリーが「年金数理人」を目指すことになります。
最近の合格実績を見るに、毎年100人くらい2次試験に合格しているのですが、そのうち2割ほどは年金コース(=将来年金数理人になるコース)で合格するイメージです。
年金数理人は、確率・統計学を中心とした高度な数理的知識を活用し、年金制度における財政状況の診断・財政運営のアドバイス・年金制度のリスク管理(年金ALM)や企業会計(退職給付会計)における退職給付債務の評価・制度設計コンサルティングなどの職務に携わる「年金数理のスペシャリスト(専門家)」です。
年金数理人会 ホームページより
アクチュアリーと言えば生命保険(=保険計理人)というイメージが強いですが、採用面接のとき
「お客さんに寄り添える仕事がしたいので生保・損保でなく年金を選びました!」
という感情もこもっていない常套句で、学生がなんとかアクチュアリー採用に潜り込もうとしてくるのが企業年金の分野です。受かってしまえば同じアクチュアリーですし、ルール的には年金コースであっても生保コースで合格するのと比較して少し時間がかかりますが、保険計理人にもなれます。
企業年金分野は生命保険会社以上にアクチュアリーの需要がありました。法律上、生命保険会社には「一人のアクチュアリー」がいれば良かったですが、企業年金の、特に厚生年金基金という制度では、必ず一人のアクチュアリー(年金数理人)を付けなければなりません。
これを”指定年金数理人制度”といい、ピーク時には2000もの厚生年金基金が存在し、信託銀行のアクチュアリーが時代を謳歌しました。
厚生年金基金は、継続して財政の検証を行う年金数理人を個別に指定することが義務づけられており、その指定された年金数理人を「指定年金数理人」という。
企業年金連合会より
厚生年金基金制度は、1970年代に作られた企業年金制度です。それはそれは高度経済成長期も相まって、「日本の企業年金制度と言えば厚生年金基金」といっても過言ではありません。厚生年金基金の特殊な点は、企業独自の部分に加え、国の年金制度である厚生年金(の一部)を企業が代行して運営・資産運用しているということです。これを”代行部分”と言います。
高度経済成長期ですから、預金でも国債でも運用利回りが確保できた時代です。制度発足のきっかけは
国(GPIF)が年金部分の運用をしているのはずるい!どうせ債券投資しているだけなのに国ばっかり儲けて!
ということで、国が管理・運用していた部分を企業が代行するという形を取りました。概ね企業が独自に運用している部分が1とすれば、やはり代行部分の方が大きく、2~3倍あります。ですので、レバレッジを2~3倍かけているようなものなので、運用がうまくいけば、そこは企業の利益(本業には加えられないのですが)になります。その利益を使って、社員への福利厚生として温泉施設や保養所を作りまくっていた、という時代がありました。
今の50歳以上の年金数理人は、この厚生年金基金の恩恵を受け、指定年金数理人として仕事に困ることもなく、年に数回の数理人としての仕事の際には、地方の旅館や基金の保養所に御呼ばれしていました。夜遅くまで宴会、地方では当たり前のように1泊して、次の日はお客さんとゴルフするという話をよく聞きます。
数理人という専門家の立場もそうですが、生保・信託銀行内での待遇も相応なものでした。法律上必要ということはそうなんですが、厚生年金基金を受託すれば、もれなく代行部分が付いてきて、生保・信託銀行が国の年金を代わりに運用することになるので、生保・信託銀行の利益(運用報酬)にも大きく貢献することになります。
なので昔はタレント的な年金数理人がいて、厚生年金基金には”先生”と呼ばれ、講演や数理人先のケアで全国を飛び回り、所属している会社(生保・信託)とも普通の社員とは異なる雇用形態を結んでいたという話も聞きます。
余談ですが、学生との時にちょっとした臨時収入(まぁ株が当たったのですが)があって、「これも人生経験だ。」ということで、有名な温泉街の一泊3万円くらいのところに泊まったことがありました。普通の平日でしたが、夜になって温泉に入っていると、反社会勢力かな?と思うほどいかついおじさんたちが10数人いらしゃってびっくりしました。次の朝に宿を出る時に入り口をふと見ると「○○県自動車厚生年金基金御一行」と書いてありました。当時は「厚生年金基金」なんて言葉もちろん知りませんので、反社会勢力の方々はそういう法人名使うのか、と思っていたのですが、それがまさかアクチュアリー関係だと知るのは、その10年後です。
トヨタとかホンダ等の企業の設立する厚生年金基金(連合型と言いますが)と異なって、地元の中小企業で業種ごとに集まって設立する”総合型”厚生年金基金があります。まさに私が出会ったのは総合型でした。
総合型は、中小企業の社長さんが持ち回りで厚生年金基金の役員(正式には「代議員」と言います。)を務め、年に数回、役員会(「代議員会」と言います。)を行います。そこで年金数理人の決算報告や運用報告を聞くのですが、遠方から来る代議員も泊まれるようにということで、旅館や厚生年金基金の持つ保養所でこの代議員会を行うことが一般的でした。正直、中小企業の社長とはいえ”年金”の決算ですし、しかも持ち回りなので、内容なんかは全く分からず、ほぼ慰安旅行となっていたのは否めません。
しかし、それも過去の話です。
企業年金の運用が、利息が5%以上付く国内債券の時代は平和でした。しかし、国内債券の利回りが低下し、5%近い目標リターンを実現するために株式等のリスク性資産が組み入れらえるようになります。
そしてあのリーマンショックが起きます。
まだ独自の制度部分だけならば良かったのですが、前述のとおり国の年金部分を代行しているため、国の代行部分の損失も補てんしなければならなくなりました。
もちろん、リーマンショックが起きる前から「もし市場が下落したらやばくないか?」と事前に厚生年金基金制度を廃止して代行部分を返還した企業も多かったのですが、リーマンショックがそれに拍車をかけました。
そして「代行部分の損失を補てんしていたら会社自体が潰れてしまう」という状況も発生し、それを問題市した行政により、厚生年金基金を2019年3月末をもって廃止(※)することが決定されました。
※正式には廃止ではないのですが、2019年以降ルールがとても厳しくなくなるので実質的には廃止と言われています。
そして指定年金数理人制度も廃止されました。
もちろん、現在主流となっている確定給付企業年金も、年金数理人を必要としているのですが、担当制ではないので、極論生保・信託各社に1人いればよいということです。
(年金数理関係書類の年金数理人による確認)
確定給付企業年金法 第97条
この法律に基づき事業主等は、厚生労働大臣に提出する年金数理に関する業務に係る書類であって厚生労働省令で定めるものについては、当該書類が適正な年金数理に基づいて作成されていることを次項に規定する年金数理人が確認し、記名したものでなければならない。
その分、生保・信託銀行でのアクチュアリーの重要性が低くなりました。
そしてもう一つの課題が、運用報酬の収益性の低下です。一時100兆円あった確定型の企業年金(確定給付企業年金・厚生年金基金)の残高も、いまや80兆円まで低下しました。厚生年金基金の廃止で代行部分が民間のビジネスから無くなってしまったのもそうですが、確定拠出年金の台頭も要因です。
確定型の企業年金の資産残が縮小すれば、それを運用して手数料として稼いでいる生保・信託銀行としても、ビジネスのリソースを割く意欲が下がります。リソースを縮小すれば人員が減るのはもちろん、部数が減ることによる部長や役員ポストの減少にも繋がります。所詮アクチュアリーが関与する業務の収益はわずかで、生保・信託銀行の収益として重要なのはこの運用収益です。それも知らず「アクチュアリーだぞ!」と大きな顔をしていると馬鹿にされるので、気を付けてください。
まとめると、指定年金数理人制度廃止によるアクチュアリー需要の低下と確定型の企業年金市場縮小による年金ビジネス縮小(重要ポストの縮小)がここ数年で起きています。
「面接やOB訪問で聞いてみよう」と思うかも知れませんが、安易におじさんアクチュアリーや試験合格が目下の目標になっている若いアクチュアリーに状況を聞くと、このような悲観的な話は教えてくれないでしょう。
なぜならば、サラリーマン人生のゴールが見えているおじさんたちは”逃げ切り体制”に入っているので危機感はありませんし、若いアクチュアリーたちは死ぬ気で得たこの資格価値の現実に目を向けるのにはまだ時間がかかります。
さて、ブログタイトルの答えになりますが、アクチュアリーはオワコンではないものの、かなり魅力度は下がってしまったと思います。
一昔前は、試験に合格すれば、それ相応の役割だったりポストがあったので、アクチュアリー(年金数理人)以外のキャリアを探す必要もありませんでした。そのため、15年くらいかかってアクチュアリー試験に合格しても、それなりにキャリアの巻き返しが可能(アクチュアリーとして定年まで働くことが可能)でした。
しかし、今ではアクチュアリー一本で終身雇用を謳歌するには難しい環境になりつつあると思います。
今回言いたかったのは、盲目的にアクチュアリーを志望しない方が良いということです。採用では、学生が嘘をつくのは当たり前ですが(笑)、企業側も良い学生を取ろうと、上記の悲観的な現実は教えてくれないと思います。人事部は嘘をつくどころか、彼らはアクチュアリーをそもそもよく知りません。「会社の免許的に数人いなくちゃいけなくて、なんか難しい試験を受かったオタク集団」くらいにしか思っていません。特に信託銀行では他にも不動産や遺言業務もあるので、そんな重箱の隅の現実なんて知る由もありません。
アクチュリアルな分野に興味があって、20代のうち(院卒であれば入社4-5年で)に合格したうえで、次のキャリアを見据えるという将来設計ならば良いと思います。早く合格すると、色々な業務経験をさせてもらえますし。
それこそ東大・京大等の優秀な大学を出て、実力なのか運なのか、試験に合格するのに10年かかってしまい(一昔前は一般的な受験年数ですが)、結局合格してもこれから社内でキャリアを築き辛い、転職するにも業務経験がマニアックすぎて良い話がない・・・という我が国日本にとって非常にもったいないという状況が起こりつつあります。
なんたってポストが減ったうえに、定年延長したおじ様アクチュアリーたちが、限りあるポストに居座っているのですから。
このあたりは、アクチュアリー業界だけでなく、日本の成長産業以外の業界の課題なんじゃないでしょうか。
なかなか応用するにも難しい知識・スキルかつ業界が「村」と言われるほど狭いです。元アクチュアリーとしては悲しい話ですが、入社してから「話が違うじゃん」とすぐ辞めてしまっては、本人にも企業にとっても何もいいことないですからね。
ここまでデメリットばかりを取り上げてきましたが、アクチュアリーのメリットを挙げるとすれば、「人」という面では恵まれていました。数字で合理的に考える集団(そうでなければ試験に受からない)なので、怒鳴る人がいたりとかパワハラとかは皆無の世界でしたし、数学はもちろん物理、化学、建築、宇宙工学といろんな学部の人がいたので、かなり深みのある雑談が多かったのはいい思い出です。