年金の財政検証とは?(1/2)

年金・生命保険

2019年8月27日、厚生労働省より公的年金の財政検証が公表されました。

将来の公的年金の財政見通し(財政検証)
将来の公的年金の財政見通し(財政検証)について紹介しています。

財政検証とは、公的年金の”健康診断“のようなものです。5年に1度、新しい経済前提や人口統計をもとに100年間のシミュレーションを行い、長期的に年金制度に問題がないかチェックします。

チェックをして問題があれば、何か対応(法律改正)するというようなスキームになっています。日経新聞では以下の記事を出していました。

厚生労働省は27日、公的年金制度の財政検証結果を公表した。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下する。60歳まで働いて65歳で年金を受給する今の高齢者と同水準の年金を現在20歳の人がもらうには68歳まで働く必要があるとの試算も示した。年金制度の改革が急務であることが改めて浮き彫りになった。

日本経済新聞 2019/8/27

記事だけ読むと、”なんかやばそう”、”年金貰えるのだろうか”と思えてしまいそうです。

しかし、不安を煽って情報に価値を持たせようとするのが、このような業界のビジネスですから、新聞を鵜呑みにせずに、自分で調べてみました。

財政検証とは

家のローンや生命保険のように、”将来のために何か準備する”といった場合、今払っている額を調整することが一般的です。

生命保険が良い例なのですが、金利や死亡率が想定した場合と相違してくると、将来の保障金額は変わらず、掛金額が変わります。公的年金も昔はそうでした。しかし、経済の低迷・少子高齢化に伴い、保険料(掛金のこと)が上がり続け、最終的には18.3%になりました。

これ以上引き上げると、消費=日本経済に影響が出てくるという判断から、平成16年に

・保険料は固定(毎月18.3%)
・代わりに年金額を調整する(マクロ経済スライド)

というルールに変更しました。そのため、”保険料はもう動かさないけど、ちゃんと将来払えるかな”という定期検診を行っています。これが財政検証です。

年金額の調整とは

年金額の調整には物価スライド(年金額の改定)マクロ経済スライドの2種類があります。

日本年金機構ホームページより

物価スライド

公的年金の一つの機能としてあるのが、”物価に連動した給付”です。

長らくデフレの日本では実感が湧かないのですが、”物価が上がる=お金の価値が下がる”というリスクが存在します。例えば、今の価値で100万円の預金があったとしても、物価が2倍になると、同じ100万円でも50万円分しか買い物ができなくなります。

年金も物価に連動して、給付額を変動(改定)します。具体的には、年(1~12月)の消費者物価指数(CPI)の変動率に応じて翌年の4月に年金額が改定される仕組みになっています。

このようにインフレリスクをヘッジ(回避)してくれるのも、社内インフラである公的年金の有益な機能です。

マクロ経済スライド

マクロ経済スライドは少しややこしい仕組みです。

先ほど、公的年金は”保険料を固定して給付を調整する仕組み”だと言いました。

これがまさに”マクロ経済スライド”でして、具体的には、おおむね100年後に年金給付費1年分の積立金を持つことができるように調整します。SFみたいですが、簡単にいうと、ゴールを決めてしまったので何かあったらスタートを調整するというものです。

厚生労働省ホームページより

少子高齢化でもなく、経済の見通しもイケイケだったら、いくら年金を払っても100年持ちそうです。この場合、マクロ経済スライドは発動しません。

一方で、10年後にでも給付が枯渇しそうであれば、来年にでも年金額を半分以下にする必要があります。なにせ100年持たせるので、今から節約しないといけないですからね。

所得代替率とは

財政検証では”所得代替率“という言葉が良く出てきます。

年金を受け取り始める時点(65歳)における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合か、を示すものです。

厚生労働省ホームページより

“あなたは65歳で月に○○円貰えます。”と言われたほうが分かり易いですよね。国民をだまそうとしているのでは?と思います。

しかし、先ほど言ったように、経済前提として物価上昇を勘案しているので、数十年後にはお金の価値が今と大きく変わってしまうのです。具体的に見てみましょう。

厚生労働省ホームページ

2019年現在の男子の手取りが35.7万円です。2060年になると物価や賃金上昇により62.9万円になっています。給料が30万もあがるのか?!と期待してしまいますが、その分物価も上昇します。吉野家の牛丼も1,000円ほどになり、実は生活水準は変わりません。

このように”額”ベースで考えてしまうと、いろいろ誤解を生んでしまうため、所得代替率という物差しを使っています。

ちなみに2019年の所得代替率は61.7%

いまのおじいちゃん・おばあちゃんは、現役のころに貰っていた給料(世帯ベース)の6割くらいを年金として貰っているということになります。

財政検証は、この所得代替率(61.7%)が将来どうなるか?を定期検診しています。前置きまでで長くなってしまったので、また次回に続きます。

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