今日はゴールドマン・サックスから面白いレポートが出ていたので、そのご紹介です。
内容としては、米国株式は今後10年間で他の資産との厳しい競争に直面すると予測され、S&P500は2034年までに債券に対して約72%の確率で劣後するというものです。
S&P500の今後10年間の名目トータルリターンは年率3%、実質ベースでは約1%と予想する。
今日の高い市場集中度から、S&P500単純平均指数(SPW)は今後10年間、時価総額平均指数(SPX)を年率200bp-800bpアウトパフォームする可能性が高い。
株式は今後10年間で他の資産との厳しい競争に直面すると予測し、年率3%の株式リターン予測と、米国10年利回りの4%、10年のブレークイーブンインフレ率の2.2%を考慮すると、S&P 500は2034年までに債券に対して約72%の確率で劣後し、インフレに対しては33%の確率で劣後すると予想しています。
つまり
米国債しかかたん。
ということです。
足元の自分が主に投資している米国債(超長期)はトランプ相場(トランプ大統領が当選して金利が上昇する見込み)のせいで散々足るもので、大統領選挙の直前では年初来マイナス7%(配当除く)を記録しています。
足元は米国金利上昇に合わせて円安に向かっているので、円建てではほぼトントンと言ったところでしょうか。配当(利息)が年4%が身に沁みます。
さて、レポートでは株式バリュエーション、市場集中度、10年債利回り、S&P500のROE(株主
資本利益率)、経済低迷頻度の推計(estimate of forward economic contraction frequency)を組み込んだモデルが、長期的な株式リターンの説明と予測に最も適していることを発見したそうです。
このモデルに基づくと、S&P 500の2034年までのリターンは年率3%と見込まれ、予想レンジの上限は+7%、下限は-1%とのことです。
過去10年間の株式リターンは13%と、長期平均の11%を上回りました。しかし、1930年以降の10年間のリターン分布は左右対称にはなっておらず、1930年代、1960年代、2000年代初頭の株式リターンの低迷期を反映して、緩やかな左肩下がりとなっているとのことです。(逆に1940 年代、1950 年代、1980年代の好調な株式リターンが、リターン分布の右側を形成している。)。
このことから、株式リターンは負の歪度(右テールより左テールが長い)を持ち、
正規分布と比較して過剰な尖度(=ファット・テール)
を持つとレポートは示しています。
なぜ、先10年の株式リターンがこれほど乏しいかの理由は、各変数のバリュエーションが過去平均と比較して非常に高いことであると言っています。
このモデルで重要なのはCAPE指数で、現在38倍と1930年以降の水準と比較すると97パーセンタイルに位置します。それだけ割高となっており、その分将来のリターンは乏しいと予想されています。
CAPE(Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio)は、ノーベル経済学賞受賞者の米エール大学ロバート・シラー教授が考案した株価の割高感を測る投資指標でPER(株価収益率)の一種。一般的に、PERは株価を一株当たりの当期純利益で割って算出することが多いが、単年度の一株利益を使用すると変動が大きくなることもあり、CAPEでは過去10年間の平均利益に物価変動を加味した値を一株利益として指数を算出。景気循環の影響を調整した株価の割高、割安を見ることができることも特徴の一つであり、景気変動調整後のPER(株価収益率)とも言われる。CAPEでは割高、割安の分岐点は25倍程度と言われている。
また、市場集中度の上昇は目先のダウンサイド・リスクの兆候ではないが、高い集中度は長期的なリターンの低下と関連しているとしています。
S&P500の上位10銘柄は指数全体の36%を占め、予想PERは31倍で取引されており、残りの490銘柄の19倍を大幅に上回っている。上位10銘柄の割高バリュエーションは、2000年のドットコム・ブームの
ピーク以来の大きさだそうです。
イールド・ギャップ(株式益利回り=一株当たり利益÷株価)の観点から見ると、S&P500 の上位10銘柄は現在、10年国債に対して60bp のマイナスのリスク・プレミアムで取引されています。
つまり債券対比割高
である一方で残りの490銘柄は合計で140bp のプラスのリスク・プレミアムで取引されているとのことです。
引き続き、S&P500構成銘柄の最大手企業が持つ競争力が持続すれば、魅力ある株式リターンが期待できるのですが、レポートでは企業が長期にわたって力強い成長と高い利益率を維持することがいかに難しいかを検証しています。たとえば、過去40年間の中で、20% 以上の収益成長を継続的に達成できる S&P500企業の割合は、10年後に急激に減少したとのことです。
経済成長も株式リターンに影響を与えます。ゴールドマンのベースラインシナリオでは、米国のGDP が今後10年間の4四半期(期間の10%)で低迷すると想定しています。この予想は、過去10年間の2四半期(=期間の5%)の実績よりわずかに大きく、1950年以降の10年間平均(5四半期=期間の13%) よりわずかに小さい数字となっています。GDP低迷頻度に対する感度分析によると、低迷頻度が1四半期増加または減少すると、当社のベースラインの年率収益予測が約50bp変化するとのことです。
2012年7月に、ゴールドマンは米国株の10年間の年間トータルリターンの見通しについて詳しく述べたオリジナルのレポートを発行していのレポートによると、その後10年間に年率 8% のトータルリターンをもたらすと予測していました。また、ハイシナリオとローシナリオも示しており、シナリオは、それぞれ年利で12%と4%と予想していました。実際、S&P 500は2012年から2022年の10年間で年率 13.3%のトータルリターンを達成しており、今回使用した更新モデルで遡って計算すると、2012年7 月の時点で10 年間の年率リターンが14%と予測されたそうです。(高シナリオと低シナリオはそれぞれ18%と10%)
結果として、10年間の年換算トータルリターン予測をもとにすると、現在債券の利回りが4%でることを踏まえ
・S&P500が債券をアンダーパフォームする確率が72%
・S&P500がインフレを下回る確率が33%
・S&P500がマイナスリターンとなる確率が4%
であることを示唆しています。
なお、ゴールドマンだけでなく、バンガードでも今後10年間のリターン予想を公表しており(2024年10月22日)、そこでも株式リターンは3%-5%(少なくとも過去10年間のように10%はない)と示しています。
バンガードも債券のリターンは4%程度と、確かに株式のリターンよりも高く見積もっています。