2020年4月20日に、NY原油先物(5月限月)がマイナスの価格を付けてから2か月が経ちました。今(2020年7月上旬現在)では約40ドル前後で取引されています。
原油がマイナス価格を付けた理由
原油先物価格が史上初めてマイナス水準に沈んだ背景は、米国で原油の保管先の確保が難しくなり、取引終了日を目前に控えた5月物に売りが殺到したためです。外出制限が続く米国でガソリン消費が落ち込み、原油在庫が急増しました。現物を「持つリスク」に直面し、お金を払ってでも原油を押し付け合ういびつな状況が生まれました。
その後、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」の一部石油相らは21日、対応を協議するための緊急テレビ会議を開きました。過去に例のない規模での協調減産で13日に合意したばかりでした。
OPECプラスの減産は5、6月が日量970万バレル、7月から2020年末まで日量770万バレル、21年1月~22年4月まで日量580万バレルと段階的に縮小する予定です。
バレルと言われてもピンときませんが、1000万バレル減産としても、OPEC+の生産量に対して1割ほどで、コロナによって20%ほど原油需要が小さくなると言われていることから、1000万バレルでも足りない!(供給超過)になるとも言われています。
その後、5月に入り原油価格は1バレル20ドルまで上昇しました。30を超える州で経済活動の一部再開を始めたことによるガソリン需要回復への期待や、サウジアラビアのエネルギー省が5月11日、国営石油会社サウジアラムコに日量100万バレルを6月から追加減産するよう指示したことが要因です。
サウジアラビアの減産は、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国が5月から実行している過去最大の日量970万バレルの協調とは別の自主的な原産だと見られています。サウジの6月の生産は日量約750万バレルと、過去最高水準となった4月に比べ日量480万バレル減ることになりました。OPECプラスで最近合意した公式の生産目標は850万バレルだったので、自主的に100万バレルを減産することになります。
5月18日になり、2か月ぶりに1バレル30ドルを回復します。
原油価格が株価に与える影響
なぜ、原油価格が変動すると株価にも影響があるのでしょうか?
普通に生活するうえでは、原油価格が安くなった方がガソリン代が安くなったり、燃油サーチャージが安くなったりとお得です。企業からしても、原価が下がるだけで単純な需要増になるので、良い話だと思うのですが。
一般論としては、原油輸出国から原油輸入国への所得移転をもたらし、その結果世界GDP(国内総生産)が増えるか減るかは、所得が減少した輸出国での支出減と所得が増加した輸入国での支出増のどちらが大きいかで決まるということで、一概には言えないとのこと。
ただし、主要な原油輸出国は数が限られているため、原油価格の下落は所得が一部の国に集中する状態が緩和されることとなり、一極集中で所得が使い切れない国があるよりは、所得集中の緩和によりみんなで少しずつの所得増加になったほうが、世界需要をネットで増加させると考えられます。
シェールオイル関連企業への影響
シェールオイルとは、岩盤に含まれる原油で、2010年ごろから北米で採掘が盛んになりました。国営企業が原油を産出するサウジアラビアやロシアと違い、米国のシェール業者は民間企業です。単純に穴を掘ればドクドクと原油が溢れてくる通常の原油とは異なり、岩盤から抽出する等、コストがかかります。シェールオイルの採算ラインは1バレル30~40ドルと言われています。
2010年と言えば原油価格が1バレル100ドル前後で取引されていた時代です。そりゃ自国で生産でき、採算ラインを考えれば必ず儲けが出る商売ということで、様々な企業・人が参入します。米国政府も今まで中東やロシアに独占されていた市場をひっくり返すことができるので、国を持ち上げてシェールオイル産業を盛り上げました。
その結果、企業はシェールオイル採掘の資金を集めるべく社債を発行します。原油価格に経営が左右されることから、シェール業者の社債は元本や利息の支払いが滞るリスクの高い債券である「低格付け債」に区分されることが多くなりました。
低格付け債の発行が盛んな米国では市場規模が1兆3000億ドルに上りますが、このうち1割強をシェール業者などのエネルギー企業が占めています。
そのため、原油価格が下がる→シェールオイルの採算が取れなくなる→シェールオイル企業が破たん→社債がデフォルト→金融危機、という悪循環が生まれます。これを懸念してリスクの高い株を売るといった状況になります。
石油産業の業績悪化
原油価格が下落すると、油田を持っている企業はもちろん在庫を抱えている企業の資産価値が下がってしまいます。資産価値が下がってしまうということは、株価が下がってしまうのも容易に想像できます。また、これは下落時の影響だけではないのですが、原油価格が安定しないと、企業は事業計画を立てにくくなり、経営状態も不安定になります。
いわゆる”不透明感”ということから、一旦手放しておこうと思う投資家が増えてくるのだと思います。
デフレの助長による経済低迷
原油価格は幅広い製品・商品価格に影響しています。原油価格が下落すると製品・商品の原価も下がるわけですから、我々が購入する価格も下がります。これはこれで消費マインドを刺激するので株価には前向き話です。しかし、この低価格状態が継続すると、デフレマインド(安いのが当たり前になる)による低温経済に陥り、企業の売上が減少し、ひいては個人所得が減ってしまう可能性があります。また、オイルメジャーのような原油(石油)に関係する多くの企業が設備投資を控えることも想定されるなど、経済にマイナスの影響を与える可能性が出てきます。