6月の頭に話題になってから、年金の話題がなかなか静かにならないですね。この問題について、以前私も感想を述べました。
・そもそも公的年金は最低限の生活を保障するもの
・老後給付の他に遺族・障害給付がありお得
とはいえ、公的年金批判でよく言われるのは”払った分貰えないから損”というもの。
そもそも公的年金は将来いくらもらえるのか?そもそも掛金(保険料)をいくらはらっているか?といった点を数字で検証したいと思います。
公的年金とは
ここからはサラリーマンの方をイメージしていきます。

サラリーマン(年金用語的には「第二号被保険者」)は、全国民が加入する国民年金(基礎年金)とサラリーマン・公務員の方が加入する厚生年金の2つの制度に加入しています。
そんな手続きしていない!という方もいるかと思いますが、一般的には入社時に人事部の方が手続きしてくれています。
ですのでサラリーマンの方は、この厚生年金・基礎年金に対して毎月掛金を払っており、65歳以降はこの厚生年金・基礎年金の両方から年金が支払われます。

公的年金の掛金
サラリーマンの方は給与明細を見てもらうと「社会保険料」という形で、掛金を支払っています。
ここで注意なのですが、厚生年金・基礎年金の区別はなく、まとめて「社会保険料」という形で支払います。細かいことは置いておくと、おおよそ額面給与(=所得税等控除前)の10%ほどが天引きされているかと思います。
少し具体的に説明すると、給与額に応じて、最大月額62万円を上限とするいくつかのテーブルに分かれており(これを標準報酬月額といいます)、現在では標準報酬月額に対して 毎月18.3%の額が掛金として支払うこととなっています。
賞与も同様に掛金拠出の対象になります(賞与は上限150万円)。
ここで注意してほしいのは、18.3%のうちの半分は会社が負担することとなっています。ですので、自己負担分は9.15%(約10%)になります。
厚生年金保険法第82条
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。
一生で掛金をいくら払うのか
以上をもとに、サラリーマンが平均的に掛金(保険料)を生涯でいくら拠出するのか計算してみました。

使用するのは国税庁の数字です。平均給与は432万円(賞与込み)。平成29年の数字です。今回の計算で使うのは男性の数字(平均532万円)です。

だんだん時代遅れになってきていますが、男性が働いていて女性が専業主婦のモデル世帯で掛金・給付のバランスを計算してみようと思います。
22歳(大卒)で入社して65歳まで働くことを前提としています。一般的には55歳~60歳で「役職定年」があるので、一旦給与が下がります。上記の想定だと生涯に支払う掛金(保険料)総額は
2100万円(自己負担のみ)
となりました。
年金はいくら貰えるのか
続いては貰う方。

掛金と違って、貰うときは厚生年金・基礎年金と別々で考える必要があります。基礎年金はシンプルで年額約78万円(月額6.5万円)貰えます。

一方厚生年金の年金額の計算は
生涯の平均給与×勤続期間×5.481/1000(年額)
で計算されます。
厚生年金保険法第43条
老齢厚生年金の額は、被保険者であつた全期間の平均標準報酬額(略)の千分の五・四八一に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて得た額とする。
掛金の計算のときに使用した平均給与の推移を適用すると
平均給与44万円×516か月×5.481/1000=126万円(年額)
となり、月額約10.5万円貰える計算になります。結果として、サラリーマン一人あたり月額17万円ほど受け取れます。
専業主婦の取り扱い
ここでちょっと補足ですが、給与を貰っていない専業主婦はどうなっているのか?年金を貰えないのか?について説明します。
結論からいうと
掛金を払っていなくても年金がもらえます。
専業主婦は第3号被保険者と呼ばれ、第2号被保険者に扶養されている配偶者(20歳以上60歳未満)と定義されます。
念のためですが、専業主婦であっても年収が約130万円を超えると社会保険上の扶養から外れる で注意(税務上の扶養の定義が別で異なりますのでこっちも注意)。このように第3号被保険者であるうちは、奥さんの基礎年金を受け取る権利が発生していきます。
旦那さんが無事40年間務めきれば、奥さんは基礎年金を満額受け取る権利が得られ
年額78万円(月額6.5万円)
を65歳から受け取ることができます。
結論:モデル世帯では最終的にいくら貰える?
さてサラリーマンの旦那さんと専業主婦のご家庭(モデル世帯)が無事定年を迎えたら、いくら貰えるのでしょうか。
結果は、夫婦二人の世帯では、旦那さんの厚生年金・基礎年金、奥さんの基礎年金合わせて23.5万円(月額)を死ぬまで貰える計算になります。
現在の平均寿命は男性81歳・女性87歳ですが、二人とも85歳まで(定年から20年間)生存したと仮定すると給付総額は約5600万円(20年×12月×23.5万円)になります。
支払った掛金総額は2100万円(旦那さんの自己負担のみ)ですから
支払った額の約2.7倍貰える
というのが結論です。

ちなみに話題の90歳まで生きると3.4倍貰える計算になります。
昔(昭和前半生まれ世代)は制度の移行等による経過措置もあり、この倍率が6倍以上(記憶ベースなので正確ではありません)になっていたので、確かに昔の人に比べたら下がっています。
また、単身または共働きですと専業主婦の優遇措置(掛金払わないで年金貰える)が享受できなくなります。この影響が一番大きいですが、会社の負担分を前提に含んだりすると、単身の場合でなんとなくトントンかなという感じはします。
いぜれにせよ公的年金は
・遺族・障害給付がある
・終身(死ぬまで払ってくれる)給付である
・インフレ等があった場合には調整してくれる
という機能を含んでいます。加えて、「保険」であり「公助」である公的年金制度に対して、あまり払った分貰えるか?という視点では考えないほうがよいかと思います。
不安な人は退職金等の自分の老後所得を確認してみましょう。